医療行為の同意は誰ができるのか(1)
医療行為の同意とは「患者が自分自身の病状や治療について十分に納得できる説明を受け、その内容を理解した上で、医師から提示された医療行為を受けるかどうかの自己決定を行う」ことです。この行為は「一身専属権」といって、本人だけがその同意を行う権利を有しているとされています。
しかし、医療同意が必要となるシチュエーションの中には、患者本人が医師の説明を受けて理解し、その上で自己決定することが難しい場合が多くあります。特に、気管切開をして人工呼吸器を装着するかどうかなど、いわゆる「延命治療」をするかしないかの選択を迫られるときは、患者本人はもう自分では決められないことがほとんどです。
その場合「本人が決められないなら当然に家族が決める」と考える方が多いと思います。しかし冒頭で述べたとおり、医療行為の同意は患者本人だけが有しているもので、たとえ家族であっても同意権はないのが原則です。
そこで厚生労働省が発出した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(通称:ACPガイドライン)が参考になります。
このガイドラインでは、人生の最終段階における医療・ケアの決定に際し、本人の意思が確認できない場合の手順を次のように定めています。
①家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとる
②家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分話し合い、本人にとっての最善の方法をとる。このプロセスを繰り返し行う。
③家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとって最善の方針をとる。
④このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておく。
この手順でのポイントは「本人の意思を推定できる家族等がいるか」「本人にとっての最善の方針とは何か」ということではないでしょうか。
どんなに近しい家族がいても、その家族が勝手に治療方針を決めることが正しいのではなく、近しい家族が本人の意思を推定して、本人にとっての最善の方針をとることが必要とされており、あくまでも本人本位で医療行為が決定されるべきとされています。
しかし現実はどうでしょう。多くの場合、患者本人の意思が確認できないときは医師が家族に説明を行い、家族に「同意のサイン」を求めることが常態化しています。しかし、この「同意のサイン」は形式的なものに過ぎず、本来はACPガイドラインに沿った意思決定のプロセスが履行されていることが重要です。