COLUMNコラム

誰もがやるべき「回想法」(1)

「運動会って言えば、卵焼きだね!お弁当に卵焼きを入れてもらえるのが運動会の特別だった」「なんてったって『巨人、大鵬、卵焼き』だったからね」「足が速かったから、かけっこで1等賞になると、鉛筆を貰えるのがうれしかった」「棒倒しで、誰よりも高いところに登って体重をかけて倒すのが楽しかった」「棒倒しで熱くなっている男子をカッコいいと思ってた」

 

これらは、80代のお年寄りがご自身の「運動会の思い出」を語ったときの言葉です。とある地域の会合に集まった806名ずつがグループになり、ファシリテーターを置いて、モニター画面に映し出された白黒の1枚の「昭和時代の運動会の写真」をもとに、次々と発言が飛び出しました。

 

1周目は、ファシリテーターが「皆さんが子どもの頃の運動会では、お弁当ってどんな風でした?」と問いかけると、お一人ずつ運動会のお弁当の思い出を語り始めます。耳が遠い方、短い時間で同じことを繰り返す方もいらっしゃる中で、その輪の中にいらっしゃる皆さんが目を輝かせてイキイキと語るのです。

 

驚いたのは「卵焼き」と「バナナ」の特別感。6人のうち4人が「卵焼き」への愛を語り、2人が「バナナ」愛も付け加えられていました。恐らく戦後10年も経っていない昭和20年代後半でしょうか。80代の方が口々に「お母さんが4時に起きて作ってくれた」「お母さんの卵焼きが甘くて大好きだった」とおっしゃるのを聞いて、頭の中は子どもの頃の運動会を思い出すことに必死になっているのだと感じました。聞いている私も、すっかり昭和20年代後半にタイムスリップした気持ちになるくらい、臨場感いっぱいに語ってくださいました。

 

普段は口数も少ないと思われる女性が、控えめに「足が速かったから、かけっこが楽しみだった。お母さんが褒めてくれるから」と語り、ファシリテーターが「すごいですね!もしかしてリレーの選手?」と聞き返すと「中学校まで毎年リレーのアンカーでした」とこれまた控えめな声で、しかし表情は嬉しそうに答えていらっしゃいました。

 

これは、認知症の非薬物療法の1つで、長期記憶を活かした「回想法」と呼ばれるものです。語ってくださった方の現在の家族関係は、何も分かりません。配偶者がいるのかも、子どもや孫がいるのかも分かりません。皆が子どもだった頃や若かった頃を思い出して語り、それをお互いに聞き合うのです。

 

「回想法」は、認知症予防ということだけで利用されるのは勿体ないと感じました。やり方や場面、守るべきこと等に気を付けた上で、誰もが利用すべきコミュニケーションツールだと思いました。口数の少ないもの静かな高齢女性が、実はリレーのアンカー常連の俊足だったなんて知ったら、その後のコミュニケーションがどんなに弾むことでしょう。

 

次回は「回想法」について、もう少し掘り下げて解説いたします。

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