誰もがやるべき「回想法」(2)
前回、認知症の非薬物療法の一つで長期記憶を活かした「回想法」の現場についてお伝えしました。ご興味を持っていただいた方が多かったようです。そこで今回は、「回想法」についてもう少し詳しくお伝えします。
回想法は、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラー氏によって提唱されました。当時は、高齢者が過去を振り返ることに対して否定的な意見が多かった中で、バトラー氏は、自分の人生を振り返り過去の出来事を肯定的に受け止めることにより、精神状態を良好に保つことができることを示しました。その後、この考え方が認知症高齢者へのケアに応用され、認知症の進行緩和やQOLの向上に繋がるものとして、高い評価を受けるようになりました。
回想法は、①心理的効果、②認知機能への効果、③周辺症状への効果の3つの効果が期待されます。①心理的効果については、自分の思い出を語るという行為が本人の心に深く作用し、気分の向上、不安の軽減、自尊心の回復、コミュニケーションの促進等を通じて、精神的安定や満足感に繋がることが挙げられます。
②認知機能への効果については、昔の出来事を思い出し言葉にして話すという一連の作業が脳の活性化を促し、認知機能の維持・改善にも良い影響を与えることが研究で示されています。
③周辺症状への効果には、認知症によって現れるとされる興奮、攻撃性、抑うつ、不安、徘徊といった行動や心理症状を緩和する効果も期待できます。
実際に、現場で回想法に参加していらした高齢男性にお話しを伺ってみました。その男性は妻に先立たれて何もかもやる気がでない日が続き、ほとんど家に引きこもって、うつのような状態になっていたそうです。ところがこの回想法をほぼ毎週取り入れている地域のコミュニティサロンに参加するようになって以来、霧が晴れたように気力がよみがえって来たそうです。このコミュニティのリーダーのような頼りがいのある男性とお見受けしていましたから、一時期、うつ症状に悩まされていたとお聞きして驚きました。
回想法は認知症のケアとして語られることが多いので、認知症はまだ早いと思っている方々には関心は薄いかもしれません。しかし、この回想法こそ、多世代で輪になって対話をすることで、話しも盛り上がり、世代間のコミュニケーションも進むものと思います。
例えば前回ご紹介した「運動会」についてのお題なら、高齢者は運動会のお弁当といえば卵焼きとバナナだったということですが、団塊ジュニアである筆者の世代では、鶏の唐揚げと稲荷寿司が定番だったように思います(違うという方がいらしたら教えてください)。Z世代だと運動会のお弁当について、どんな思い出を語ってくれるでしょうか。
脳の血流を潤滑にし、どの世代も自分の記憶を呼び起こして楽しく語り合える回想法を、ぜひ多世代のコミュニケーションツールとしても利用していきたいものです。